コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント2021年版
「独立社外取締役」と「サステナビリティ」が重要テーマに

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改訂コーポレートガバナンス・コード (2021年6月11日更新)

本日、2021年6月11日、金融庁および東京証券取引所より2021年改定版のコーポレートガバナンス・コード(確定版)が公開され、同日より施行となりました。同時に「投資家と企業の対話ガイドライン」も確定となりました。これにより2018年から3年ぶりとなるコーポレートガバナンス改訂に関わる作業は全て完了し、上場企業においては今後この新コーポレートガバナンス・コードに即した運用が開始されることとなります。

2021年4月7日に東証および金融庁から公開された最終案からの変更点は、語句統一の1か所のみ。(原則5-2において「人材投資」を「人的資本への投資」に修正)。5/7に締め切られたパブリックコメントでも改訂内容への賛成のコメントが多数を占め、20回以上にわたって開催された「スチュワードシップコード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」にて十分な検討がなされた結果であることが伺える結果となりました。

本コラムでは、本日より施行開始となった2021年版コーポレートガバナンス・コードを、2018年版コーポレートガバナンス・コードと比較し、その改訂ポイントや金融庁および東証の狙いなどを解説いたします。

(2021年6月28日追記)
改訂後コードに対応した具体的な開示事例につきましては下記コラムもご参照ください。
関連記事:「コーポレートガバナンス報告書」の開示事例 ~2021年改訂コーポレートガバナンス・コード対応~

改訂の概要

2018年版のコーポレートガバナンス・コードに対して、

5つの原則(補充原則)を新設
14の原則(補充原則)に追加・修正

が施され、全78原則から83原則となる最終提案となりました。全体を通して大きく変更された点は、

1.取締役会の機能発揮
2.企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
3.サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取組み

の3つとなりました。

1および2については報道等もされており予想された内容ではありましたが、1の中でも社外取締役の重要性については予想よりもさらに重視された扱いとなっていると感じます。3のサステナビリティについては、新設・追加項目の随所に盛り込まれ、その内容も具体的で踏み込んだ内容となっており、非常に重視されています。今回の改訂コードでは、サステナビリティをESGとして分類しており、「E」として気候変動などの地球環境問題への対応が新規項目として追加されています。また、「S」として「人的資本」もサスティナビリティの項目として新たに追加。「人的資本と知的財産」「人的資本と投資」といった内容で重要項目として取り上げられています。

以下、今回の変更項目をまとめました。(Pはプライム市場対象)

【新設項目】

2−4① 女性の活躍推進を含む社内の多様性の確保 ・中核人材(管理職層)の多様化と開示
3−1③ 情報開示の充実 ・サステナビリティへの取り組み、人的資本への投資の開示。
・TCFDの枠組みでの気候変動に対する方針と影響の開示。(P)
4−2② 取締役会の役割・責務(2) ・サステナビリティへの取組み、人的資本への投資に対する取締役会の責務。
4−8③ 独立社外取締役の有効な活用 ・支配株主がいる場合、独立社外取締役過半数。(P)
・支配株主がいる場合、独立社外取締役1/3以上。
・もしくは、独立社外取締役を含む特別委員会の設置。
5−2① 経営戦略や経営計画の策定・公表 ・事業ポートフォリオの策定と開示


【追加・修正項目】

1−2④ 株主総会における権利行使 ・議決権電子行使プラットフォームの利用(P)
2    株主以外のステークホルダーとの適切な関係 ・「考え方」にサステナビリティ(ESG)への対応強化を追加
2−3① 社会・環境をはじめとするサステナビリティを巡る課題 ・「気候変動」「人権の尊重」「従業員の健康」等への対応強化を追加
3−1② 情報開示の充実 ・英語での情報開示(P)
4      取締役会等の責務 ・支配株主からの少数株主の保護
4−3④ 取締役会の役割・責務(3) ・内部統制の、全社/グループ全体への整備に対する取締役会の責務。
4−4  監査役および監査役会の役割・責務 ・監査役会による選解任の対象に監査役を追加。
4−8  独立社外取締役の有効な活用 ・独立社外取締役1/3以上。状況によっては過半数。(P)
・独立社外取締役2名以上。状況によっては1/3以上。
4−10① 任意の仕組みの活用 ・独立社外取締役が半数以下の場合、独立社外取締役を中心とした指名委員会、報酬委員会の設置。
・指名・報酬委員会を独立社外取締役過半数で構成(P)
4−11  取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件 ・取締役会の多様性に職歴と年齢を追加。
4−11① 取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件 ・スキルマトリックスの作成・開示。
・独立社外取締役の要件に他社での経営経験を追加。
4−13③ 情報入手と支援体制 ・内部監査部門から取締役会への直接報告の仕組み
・監査役会の機能発揮を追加
5−1①  株主との建設的な対話に関する方針 ・株主との対話対応者に監査役を追加

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コーポレートガバナンス・コードの沿革

改訂の個別ポイントに入る前に、より理解を深めるために、コーポレートガバナンス・コードの制定に至る歴史的背景について少し触れておきます。

日本において「コーポレート・ガバナンス」の示す意味は、時代とともに多少変わっています。バブル崩壊直後は、企業不祥事への反省から、正しく企業経営を行なうための「法令遵守・適法性」という意味合いが強いものでした。しかしながら、バブル崩壊後20年にも渡り日本経済が低迷。その主たる要因は日本企業の業績、企業価値の低迷にありました。その原因と考えられたのが「コーポレート・ガバナンス」。

つまり、「企業統治が不十分」→「企業パフォーマンスを上げることができない」→「企業価値が上がらない」→「日本経済が低迷」
という考え方が一般的となりました。その考え方は、日本政府が2014年6月24日に公表した日本再興戦略 改訂2014においても明らかです。

Ⅱ.改訂戦略における鍵となる施策
1.日本の「稼ぐ力」を取り戻す
(コーポレート・ガバナンスの強化)
日本企業の「稼ぐ力」、すなわち中長期的な収益性・生産性を高め、その果実を広く国民(家計)に均てんさせるには何が必要か。まずは、コーポレート・ガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である。
                               出典:「日本再興戦略」改訂 2014 -未来への挑戦- より抜粋

日本の鍵となる戦略の1番目として「日本の【稼ぐ力】を取り戻す」を表明し、そのための策として、「コーポレート・ガバナンスの強化」による「攻めの経営判断」が重要としています。このような流れの中で、コーポレートガバナンス・コードは制定され、2015年より運用開始となります。

金融庁は、コーポレート・ガバナンスを以下の様に定義しています。

コーポレートガバナンス・コードについて
本コードにおいて、「コーポレート・ガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。本コードは、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものであり、これらが適切に実践されることは、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することとなるものと考えられる。
                         コーポレートガバナンス・コードの基本的な考え方 平成26年12月12日 金融庁

従いまして、現在の「コーポレート・ガバナンス」の意味するものとして、

1.いわゆるコンプライアンス目的の「守りのガバナンス」
2.企業の意思決定を迅速化、積極化し企業価値を向上を目的とする「攻めのガバナンス」

という2つが存在し、それらによって「企業の持続的成長」を目指します。また、上述の通り、近年では特に「攻めのガバナンス」が重視されており、コーポレートガバナンス・コードはそれを体系的に推進するための仕組みとなっております。

コーポレートガバナンス・コード改訂のポイント

以上の背景のもと、今回の改訂の重要ポイントは以下5点と考えます。

ポイント1「取締役会の機能向上」

今回、非常に多くの項目にて「独立社外取締役」が登場することとなりました。取締役会の実質的運営主体を独立社外取締役へ移行するため、その割合とともに質についてもスキルマトリックスの策定を通じて適切なガバナンス体制の構築が求められております。
また、取締役会のみならず、それを支える指名委員会、報酬委員会などへも独立社外取締役を中心とした独立性を求めており、透明・果断な経営判断による攻めのガバナンスの促進を目指す考えが伺えます。今回の改訂における一番重要なポイントとなります。

ポイント2「中核人材の多様性」

報道通りの内容ではありましたが、管理職層の多様化の原則がが新設されました。具体的には、女性、外国人、中途採用者が挙げられており、自主的な目標設定と開示が求められています。また、多様性の確保に向けた具体的な社内環境整備や人材育成の方針と実施状況の開示も求められおり、企業としてはどのような開示をするべきか悩ましい項目かと思われます。

ポイント3「人的資本」

サステナビリティ(ESG)に分類されました。今までのコーポレートガバナンス・コードでは「非財務情報」の一部として扱われていた人材に関わる項目が、「人的資本」として独立項目として取り上げられました。
特に、「投資」との関係について、取締役会の責務としても記載されるなど、重要なテーマとなっています。

ポイント4「環境」

今回大きく取り上げられることとなったサスティナビリティですが、人的資本と並んで「環境」についても具体的な項目が追加されました。3-1③では、プライム上場企業に対して、気候変動によるリスクと収益機会についてTCFD(または同等の枠組み)に基づいたデータ収集と分析を行い、開示することを求めています。同等の枠組み、とは、現在仕様化が進行しているIFRSの非財務情報開示の枠組みを想定しており、非常に具体的な要求内容となっています。

今回サステナビリティが大きく取り上げられましたが、その要素としては「人的資本」「環境」が大きく占めるものの、それ以外にも「人権の尊重」「従業員の健康」「労働環境」「公正・適正な取引」など広く例示されており、総合的に企業の持続的成長を求める内容となっています。

ポイント5「監査役の重要性」

今回、独立社外取締役が非常に多く取り上げられており目立ちませんが、監査役についても重要性が上がっています。4-13では「監査役会の機能発揮」が追加され、5-1の株主との対話においても、面談すべき対応者に監査役が追加されています。経営陣への監督機能として、社外取締役と同じく監査役の重要性も上がっており、取締役会の機能強化の一環となっています。

人的資本関連の改正点と狙い

さて、上記改正点で重視されている人的資本について少し説明を加えます。

現在、全世界の企業経営にて最も重視されているのは「人材」と言っても良いでしょう。アメリカでは企業の無形資産への投資は2000年から既に有形資産への投資を上回っており、知的財産、そしてそれを生み出す「人」が最上の資産であり、投資先となっています。アメリカのこの投資行動がGAFAを初めとしたIT企業を成長させ、情報技術の発達や生産性の向上に結びついたことは広く知られています。

日本においては無形資産への投資は着実に伸びてはいるものの、依然として有形資産投資を下回っています。この差が日米の市場経済の差となっており、現代では無形資産(人)への投資の成否が企業価値を左右すると言っても過言ではありません。

無形資産、有形資産の対名目GDP比推移 日本とアメリカ比較
無形資産、有形資産の対名目GDP比推移 日本とアメリカ比較

出典:内閣府資料

そのような投資家の視点を受け、世界的に人的資本への投資に注目が集まり、判断基準となる人的資本に関する情報開示の要求も高まっています。

・米SECによる全米上場企業に対する人的資本情報開示義務化(2020)
・ISOによる人的資本情報開示の標準化(ISO30414)(2019)

など、人的資本に関する情報開示と投資の関係が非常に注目されています。

人的資本情報開示に関する国際的なガイドライン「ISO30414」についてはこちらの記事で解説しています。

関連記事:ISO30414が注目される理由とは?企業への影響についても解説

今回のコーポレートがバンス・コードの改定で人的資本への投資に関する項目が重要視されているのは、このような背景のもと、人的資本への投資を促し、企業のROEを向上させることが目的と考えられます。
企業のROEが向上することで海外投資家が日本企業に再び目を向け、日本の市場経済の活性化につながることが期待されます。

今後のスケジュール

企業の対応

2021年のコーポレートガバナンス・コード改訂に関連するスケジュールは以下の予定です。(6月11日情報更新)

・4月7日:金融庁よりコーポレートガバナンス・コード最終案公開、パブリックコメント受付開始
・5月7日:パブリックコメント受付終了
・6月11日:改訂コーポレートガバナンス・コード施行
・6月末日:新市場区分の移行基準日 東証が移行先の基準に達しているかどうかを企業に7月末までに通知
・9月〜12月:移行手続き期間
・12月末:移行計画書を開示(コーポレートガバナンス・コードへの対応方針)
・2022年4月4日:一斉移行日

当社の取締役会支援サービス

このようにコーポレートガバナンス・コード改訂から来年4月の市場区分変更へ向けて上場企業(および上場予定企業)においては多くの対応が必要とされます。当社は人材紹介会社として、設立以来多数の「社外取締役」「監査役」のご紹介を行っております。また、その経験を活かして、社外取締役・監査役紹介に関連する支援サービスもご提供しております。

今回のコーポレートガバナンス・コード改訂における最重要テーマである「取締役会の機能強化」においては、

・「スキルマトリックスの策定支援 」   【4-11、4-11①】
・「独立社外取締役・監査役のご紹介」【4-8、4-9】
・「新任取締役のトレーニング」      【4-14】
・「取締役会の実効性評価」        【4-11、4-11③】

までを一連の流れとして、トータルソリューションとしてご提供する「取締役会支援サービス」をご提供し、企業様の課題解決、ご負担の軽減につながるソリューションを提供しております。また、社外取締役以外にも、中核人材の多様性【原則2-4①】を実現する多様な優秀人材のご紹介も行っております。

資料ダウンロードはこちら

▼改訂後のコーポレートガバナンス・コードに対応したコーポレート・ガバナンスに関する報告書の開示事例についてはこちら紹介しています。

関連記事:「コーポレートガバナンス報告書」の開示事例 ~2021年改訂コーポレートガバナンス・コード対応~

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弊社では、女性、SDGs、グローバルなど、多様性を考慮した独立社外取締役をご紹介しております。

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この記事の著者

杉江幸一郎

杉江幸一郎

事業開発担当マネージャー
東京大学経済学部経営学科卒。大手メーカー、通信事業者、IT企業など上場事業会社にて経営戦略、事業企画、海外事業立ち上げ等の責任者を歴任。上場企業の取締役、CISOおよびISO事務局を担当。
コトラでは、コーポレートガバナンス、取締役会支援、IFRS支援、ISO30414支援業務のプロジェクトマネジメントに従事。

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